「村上春樹作品のなかで、何が一番好き?」
と聞かれた時のために、1作、用意しておいたものがある。
結局聞かれる機会なんてまあなかったけど、
それは、
『ダンス・ダンス・ダンス』
これを私は19だか20だか21だかとにかく大学生の時にはじめて読んで
驚いたのだ。
多分、“知らない世界”が書かれてる、と思ったから。
当時の私にとって、その中に書かれているすべて(とくに主人公の暮らしぶりや
行動のそれぞれ)がなんともスタイリッシュで
憧れに値するようなものだったんだと思う。
その後も私は折に触れ、
何回か、この小説を読んだ。
そしてずいぶん読まなかった。
いつかも書いたみたいに、
私の中での小説離れがすすんでいた。
いや、小説だけじゃなく、本全体から、だいぶ距離ができていた。
でもまたいろんなことがあった。
だいたい家にいて、何もなさそうなんだけど、
でもまあたぶん
それなりにあった。
そしてなんとなく、本棚の端にずっと置いてあった、
この
ダンス・ダンス・ダンス が目に入ることが増えてきた。
そして私は数年ぶりもしくは十数年ぶりに、
この本を読んでみることにした。
驚いた。
主人公が、まるで私かと思ったから。
主人公の言っていることが、とてもよくわかるのだ。
あんなに分からなかった、というか遠くの存在に感じていたのに。
これは、知らず知らずに影響を、受けていたんだろうか???
それとも、そもそも自分の中にその要素があるから興味をもって
読んでいたんだろうか?
正直どちらでもいいし本当のところなんて分からないような気もする。
とにかく冒頭の方で、例えば驚いたのはこの辺り。
自己紹介。
昔、学校でよくやった。クラスが新しくなったとき、順番に教室の前に出て、
みんなの前で自分についていろいろと喋る。僕はあれが本当に苦手だった。
いや、苦手というだけではない。僕はそのような行為の中に何の意味を見出すこともできなかったのだ。
僕が僕自身についていったい何を知っているだろう?
すごく よく わかるのだ
20歳前後の私にはまるで分からなかったはずだ。(たぶん)
でも分からないなりに興味をもち、読んだ。
夢中で読みふけった。
その世界観。
他に“憧れ”のようなものを抱いていた部分としては、
主人公がやたらと、朝・昼問わずアルコールの類を口にしていることだった。
それについては今、何も思わずに読めた。
それだけ、自分もお酒を飲む時間が夜に限らなくなっているからだ。
記憶とちがっていたこともあって、例えば、
主人公はもっとプールで泳いでいたような印象があったけど、それほどでもなかった。(※)
あとは、すごく大きな出来事というか転換のような部分が
ごっそり抜け落ちていたりした。事件とも言いかえられるようなところ。
私が覚えているのはその雰囲気であったり、
もっと流れのようなものだったり
ああ、ここでそうだ、こういうことが起きたんだな、みたいなことだった。
そして主人公が、ビールなりウイスキーなりウォッカなりを飲む。
彼女の目にはいろんな物事が何もかも新鮮に映るのだろう。音楽や風景や人々が。
それは僕が見ているものの姿とはまるで違っているだろう。僕だって昔はそうだった。
僕が十三歳の頃、世界はもっと単純だった。努力は報いられるはずのものであり、
言葉は保証されるはずのものであり、美しさはそこに留められるはずのものであった。
(略)
僕は苛立っていた。苛立ちの年だった。
僕は女の子に恋をしていて、それはもちろん上手く行かなかった。
何故なら恋がどういうものかということさえ僕は知らなかったのだから。
興味深い出来事だったから書いた。
そしてこれを書いている今、とても楽しい。
2026年6月
これが本の紹介になっているか分からない。
けどもしかしたら今こそ
読んだらいい人がいるかもしれないし、
こんなすごいことが書いてるなんて、
いつかは分からなかった。
今は、前より、まだ、わかる。

(※)これはもしかしたら前三部作(『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』)の主人公と同じ主人公なので、羊をめぐる冒険あたりではもっと泳いでいたりするのかもしれない


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