2014年4月
消費税増税に伴い、
2円切手を買いに行くことになった。
50円の切手が52円になった。
80円で送れたものも80円では送れなくなった。
会社にある50円切手の数より少し少ない数の2円切手を、
郵便局で数十枚買って戻る。
「買ってきました。」
上司に報告も兼ねて2円切手を渡すと、
「かわいい!!」
と、上司の右隣の席のBさんが叫んだ。
新しい2円切手はウサギのデザインなのである。
そのウサギが「かわいい」とBさんは言っているのだ。多分。
久しぶりに、「かわいい」を聞いた。
2004年4月
私は、田舎の全校100数名というのどかな環境で小学生時代を過ごし、
中高は比較的サバサバした人間の多い女子校で育った。
そして上京し、
大学に入ってから、
「かわいい」と言う女子の多さに驚いていた。
クラスの誰か1人が新しい手帳を取り出す。
「何それ?かわいい!」と近くにいた女子が言う。
気づけば5〜6人の女子がその子の机を囲んでいる。
集まった女達は「かわいい!」「かわいい!」と叫ぶ。
今度は、手帳の隣に置いてある筆箱を誰かが「かわいい!」と言う。
するとその群れは同じように「かわいい!」「かわいい!」「かわいい!」と叫ぶ。
なんだろう。内容があるようで、無い。
「かわいい」以外に何もない。
「何が」に関して、細部に触れることは一言もない。
私がそっと隣にアナコンダを置いても「かわいい!」と言うのではないかというくらいの勢いがそこにはある。
そしてそれ以外、
つまり「かわいくない」に関する意見は
暗黙の内にそこで認められていないということもなんとなくハッキリと分かった。
知っている「かわいい」とは何かが違う。
あの「かわいい」は一体なんなんだろう。
大学に入るまでそれを聞いたことがなかったのは、
中高時代、私の筆箱が、元・粘土ケースだったからという理由だけではあるまい。
そして、今。
その「かわいい」を久しぶりに聞いた。
Bさんが「かわいい」と言っている2円切手には、
ウサギが描かれている。
そのウサギがもしイラストタッチだったら
私もまだ「かわいい」と言えるかもしれない。
しかし切手の中にいるのは、
写実タッチのウサギなのだ。

だから「かわいい」と言えずに、
「リアルですね。」
そう言ったときの
Bさんの雪女のような冷えきった顔が忘れられない。
女が通ると、かわいい!が通る。
今も昔も私はそっと離れる。
「かわいい」の現場から、音をたてずに離れる。
そして自分のデスクに戻る道中、
Bさんのデスクトップ画面が、
11匹のハムスターが寄り集まっている写真であることを確認した。

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