初めての日のこと


初日のことはあまり覚えていないと書いたが、それはウソだ。
ひとつだけ覚えている(忘れたフリした)ことがある。

勤務初日、終業時間の15分前に、例の上司が私のところにやってきて、
「もう、しめちゃっていいです。」
と言った。

「!」

これは、初日だし、早めにあがっていいという“計らい”だと思い、
最後に残った任務を済ませ、タイムシートに今日の勤務時間を記入し、
ちゃんと礼儀正しく挨拶して帰ろう!と、上司の席へ行き、
タイムシートに承認のサインをしてくれたのを確認後、

「今日は、ありがとうございました。
 お先に失礼します!」

と元気よく挨拶したところ、
上司が豹変、完全にどん引きした様子になり、
「え、まだ10分あるので、いてもらわないと……」
と言った。

時が止まった。

そして動揺。
完全に動揺した私は、
「やだ〜〜〜〜〜!!」
と言って、そして、まさかの、あれをやってしまった。
合コンで、女子がたまに披露するあれ。
“ ソフトタッチ ” である。
初対面の、女より犬のメスを大切にしている、その上司の腕に、
混乱のあまり一瞬触れてしまったのだ。
そしてそのソフトタッチは相手も自分も更に動揺させ、
今度は固まってしまった上司を見て、
「ほんとーにすみません!私てっきり上がっていいということだと!」
と、大声で弁解と謝罪をした。
今考えてもヘッドバンキングものである。

「いや、それは現金のことです。」

と上司は言葉少なに言った。
どうやら本日の現金出納を〆る、ということだったらしい。

OLはしがない派遣社員で、
経理アシスタントとして働くことになった。

こんなに大騒ぎしたにも関わらず、
近くに座っている周囲の社員からは何のリアクションもない。

そう、OLは「ヒンシュク」を見た。

これが、初日の話である。

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