泣かないで社長


社長がおもしろくなさそうだ。

社長の働いている姿を派遣のOLが眺めるのも滑稽だと思いながらも、
私は生来、社長というものに非常に興味を抱いている。
社長と私の対角線上には同じ部署の社員Cさんが座っているので、
社長を見ようとするとその前にかなり近い距離でCさんを見つめる形になってしまうので
仕事中の社長のことはあまり知らないけど、
私のデスクは入り口から最も近い位置にある為、
社長の出社を見守ることはできる。

朝、オフィスに入ってくる社長は、なんだかだるそうだ。

いい服を着て、足もきちんと右左交互に歩いているのだが、
どちらかというと面倒くさそうで、どちらかというと面白くなさそうにやってくる。

視線というより体で社長を感じながら、想像する。
社長の考えを。

想像しているところ

「若い頃は営業でブイブイ言わせてたんだけどなぁ。」
 
だろうか、やっぱり。
 
こういう勝手な推測は申し訳ないとも思うが、社長が気になる。
「社長」という肩書きに既にドラマを感じている。

終業後、初めてのアフター5のため、夕飯を済ませてから出ようと、
お昼半分残しておいたお弁当をレンジであたためていると
隣の隣の席のBさんが丁度近くを通りかかった。
「何? 今から食べるの?」
コソコソしていたい時に限って声をかけてくる。
レンジのある場所は入り口入ってすぐ左手の奥まった場所にあり、
さらに通路を進んでつきあたりが女子更衣室、曲がると男子更衣室へとつながる。
Bさんに曖昧な答えを返していると、後ろから、
「何? 夜食?」
という声が聞こえた。
振り返るとそこには今までに見たこともない
満面の笑みと輝きを浮かべた顔の社長がいた。
社長も定時上がりだったのか、ちょうど男子更衣室へ向かう途中だったらしい。

私はその笑顔を見て確信した。

残業続きだった営業職の、夜食まみれの若い頃を懐かしんでいる。
“夜食”という言葉の響きが、骨の髄まで染み込んでいるのだ。

営業でブイブイ言わしていた社長。
 

騒いでいたら例の体操のお兄さん社員もやってきて、
「なんか集まってきちゃったよ。」
と社長はニコニコしている。
 

2025年の今:なんか、もっと話してみたらよかったな。

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