まぼろしの社員旅行 2


社員旅行の案内用紙に
いつものように心を込めた付箋を貼り、
案内を渡してくれたDさんへ、紙を戻す。


付箋



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付箋

付箋には
 
「都合がつかず不参加でお願いします。
 お誘いいただけて嬉しかったです!
 関係ないかもしれませんが、
 行くなら3番の相撲プランがいいです!」
 
と書いた。


そこから数日が経ち、すっかり社員旅行のことなど忘れた頃。

「あれ、どれもイマイチじゃん!」

と、隣の女性社員Aさん(サバサバしている50代)が言っているのが聞こえた。
Aさんの向かいに座っている女性社員Cさん(右手の薬指に指輪をしている30代)も
「うーん、せめて、どのプランだったら参加とか分けて選べるようにしたらいいんじゃないですか。」
と言っている。

これは社員旅行の話だ! と私はピンときた。

今、この部署にいるのはAさんCさん、Dさん、そして私の4人だけで、
旅行プランになにかしら納得できない女性社員二人を相手に、
Dさん(はげている年齢不詳の40代・男性)は自分の言い分を努めて明るく述べている。
4人中3人が話していて、私にも誘いのあった話なのだから加わったって不自然じゃないはずだと思いながらも、会話に混ざるタイミングが掴めない。
入るなら「私は相撲のプランがいいと思います。」をきっかけにしようと思ってはいるのだが、言うタイミングが見つからない。
そのまま仕事をしているフリをして様子をうかがいながら数分後、
3人それぞれが十分に言いたいことを言ってしまったのか場は静かになり始めた。
また話に加われなかったと肩を落としていると、
Aさんが、再び仕事の手を動かしながら、
冗談をつけくわえるような口調で、
「相撲だったら絶対行かないけどね。」
と言った。

え?と思って

 
全く話に入っていなかった私もその時少しだけ首をそちら側に回した。

「相撲だったら絶対行かない」、そこで私を除いた3人の社員旅行トークはほぼ終わったとみえた。
皆ほぼ完全に仕事に戻っていたが、私は、話の余熱ならまだ残っていると思い
Aさんに話しかけた。

「見たことあるんですか? 相撲。」

そう私は尋ねた。
するとAさんは言った。

「ないよ! だってデブ見たくないじゃん!」
 

え?その2

・・・・・・・!!!!!


偏見だ、あまりに偏見だ。
まさか力士側も、
あんなに土俵で張り手したり突いたり押切寄り切りしたりしているのに、
ただのデブ呼ばわりされるなど思ってもみないだろう。
力士を相手にそんな乱暴な表現ができるのは、
ここがオフィスだからだと思う。
オフィスという土俵に、守られているのだ。
 
 

土俵


ところで、
多数決の結果、社員旅行は一泊二日の東北温泉旅行に決まり、
私の部署の人々は皆、企画者のDさんを除き
全員不参加のようである。
 

さびしげな力士

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