水やお湯のでるサーバー、紅茶のバッグやコーヒーのドリップバッグ、
飲むことに関する色々なものはオフィスの内部に設置されているが、
流しだけは外にある。
コップを洗ったり、花の水を変えたりするくらいしか特に用はないのだけれど、
コーヒーの、ドリップバッグやティーバッグを捨てるのは流しの三角コーナーと決まっている(*相変らず明文化はされてないけど)。
朝、甘いものを飲む気分じゃないからという理由だけで入れたコーヒーを持って、
役割を果たし終えたばかりのドリップバッグを流しまで持っていく。
するとそこに、
お掃除グッズを従えたおばちゃんが立っていた。
私に気づいたおばちゃんが、
「なんでだろ、いっぱいある、、」
とつぶやいた。
その目線をたどると、
それは流しでもなく、三角コーナーでもなく、
シンク前の空間、隅に置いてあるゴミ箱なのであった。
「いっぱいあるの。」
おばちゃんは今度は私を見つめてもう一度言った。
カップを持ったまま2歩ほど進みゴミ箱の中を見ると、
大きなゴミ箱の中、10分の1程のゴミが入っていた。
(そんなに、ない・・・)
それが私の感想だった。
しかし掃除のおばちゃんがそう言うのだから
「ある」のだ。
そうですねぇ!
と言ったら今度はおばちゃんが
「私が、取り忘れたのかしら?」
初対面では不可能なほど切ない目で私を見るから
私は、おばちゃんが美しいアイラインを引いていることに気づく。
いやいや、そんなことはないでしょう!
こちらも初対面らしからぬ力強いフォロー。
するとおばちゃんはほっとしたのか
「みんな、朝からよく働くね。」
と言った。
話題が変わったことに私もほっとして
そうですね。
と答える。
そしておばちゃんは
三角コーナーでまだ湯気をたてるドリップバッグの香りに鼻を利かせるような素振りを見せて
「あ〜いいにおい。」
と言った。
なぜか私の胸は締め付けられた。
おばちゃんは私よりしっかりお化粧をして、きれいな顔だちをしている。
「においだけでもいいわ。」
と言っておばちゃんは、
「コーヒーはやる気が出るのよ。」
と言った。
私は自分のコップを少し上げて
いただきます!
と言った。
おばちゃんは私のコップを指さしてもう一度、
「やる気がでるのよ!」
と言った。
いつものコーヒーに
掃除のおばちゃんのおまじないが加えられた。

2014年6月5日
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